リレーインタビュー

第3回 三菱マテリアル 亀山 満氏 インタビュー

変革に正解はない。だからこそ「覚悟」がいる。

亀山 満 氏

三菱マテリアル CDO(最高デジタル責任者)

第一線で活躍する方々の経験と哲学をじっくりと伺うリレーインタビュー。 今回は150年の歴史を誇る三菱マテリアル史上初のCDO(最高デジタル責任者)として招聘されDXに挑む亀山満氏に、ご自身の転機やその溢れるバイタリティの原動力、日本のDXのカギなどについて伺った。

日産自動車にて1995年からITを活用した全社業務改革プロジェクトを担当。ゴーン改革を肌で感じながら車へのIT適用プロジェクトのリーダーを務めた。中国との合弁企業である現地法人のCIO、グローバルマーケティングシステム部長などを歴任。2012年資生堂に入社、最高情報責任者としてグローバルIT戦略を統括。コーポレートIT化、店頭での肌診断やカラー診断を集約した「ビューティータブレット」の展開、また「Global One Shiseido」のキャッチフレーズのもと基幹システム刷新プロジェクトを推進し、2019年に退任。2020年より三菱マテリアルにて同社初のCDOに就任。
JUASには2012年よりIT部門経営フォーラム、未来ビジネスフォーラム等へ継続的に参加。

自ら動き、道を拓く面白さに魅せられて

●亀山さんのキャリアを拝見するとまさに変革と共に歩んでいらした感があります。
――私、会社が変革していく姿に立ち会うのがこれで4回目なんです。ゴーンさんが来た後の日産、中国の現地法人、資生堂、そして三菱マテリアル。でも初めからITに興味があったわけではなく、日産に入社した動機は「車が好きだから」。学生時代はモータースポーツに熱中して、エンジンの研究をしていました。飯より車、とアルバイト代もすべて車につぎ込んでいたくらい(笑)。車両実験部に配属になって、いつかレース関係をやりたいと思っていました。でも1992年にITに目覚めちゃった。きっかけは二つです。一つ目はPCを活用した実験進捗管理システムを作るプロジェクト。ベンダーさんに教えてもらいながらBasicを使って1年間泊まり込みで作りました。そこでシステムの醍醐味である、難しさと面白さに魅せられてしまった。もう一つは、社内の選抜研修です。自分でテーマをセットして最後に卒業研究をまとめて役員に発表するんですが、私が決めたテーマは「情報・ITで活きるエンジニア」。センサーを飛ばして情報を収集する、いわゆる車へのIT適用をテーマにニュージーランドの大学や諸企業を訪問し研究して、私なりの考えを経営に発表しました。その時人生で初めて、自分がやりたいことをどういうロジックでどのように自分の言葉で経営に伝えて説得するか、突き詰めて考えました。また自分が動いてキャリアを作っていくことに対して、周りがどう反応してくるかを肌で感じました。これは私にとって転機だったといえるでしょう。

またある時には、上司に「プレゼンには自分の言葉で自分の意思を入れなくてはいけない」とコテンパンに言われたこともありました。それで、負けるもんか、って(笑)。必死に走り続けて、5、6年後にその上司に「大分伝えられるようになったな」と言われた時は、それはもう、嬉しかったですね。

意志を持たなくなった瞬間に、自分はダメになる

●先ほど企業の変革に4回立ち会ってきたというお話がありました。亀山さんを見ていると、強引に変革しようというより、対話を大切にしているように思えます。
――自分としてはこうしたい、この方法がいい、というのはあるけれど、それが本当に良いのかはわからないじゃないですか。だから一緒になって考えることは大事です。でも責任者であるならば、こういう方向でこう動いて行こうという意志は持っています。それは決して正しいわけじゃない。何が正しいのかはわからない。でも「自分はこう思う」という軸がないと、ぶれてしまうし、別の意見を取り入れたり軌道修正したりできない。「まあいいや、皆の言う通りにやっていって、とりあえず…」とか、自分の意志を持たなくなった瞬間に、自分はダメになると思います。

新しい世界が次の新しい世界につながる

●そんな亀山さんのモチベーションは何なのでしょうか?
――新しい世界に入る楽しさですね。新しい世界には新しい人との接点がある。それが楽しさや喜びになり、さらにそのネットワークや経験が次に活きるというワクワク感が好きですね。もちろん変革は大変でぶつかったり失敗したりもするけれど、自分で青写真を作って進めていくのは楽しいですよ。仲間と共に少しでも会社を前進させることができたかなという感覚はかけがえのないものです。

日産で30年間走ってきて次にやりたいこととして浮かんだことの一つが、全く違う業界でITの仕事をすることでした。上司に相談すると「いいよ、でも条件が三つある」と。一つ目は自分が本当に行きたいと思えること、二つ目は上司が行ってもいいと思えること、三つ目は部下が行ってもいいと思えること。なかなかOKをもらえなかったのは、部下。でも女性の部下たちが即席の化粧品講座を開いて後押ししてくれて、最後には上司も部下も応援して送り出してくれました。

私が感じた資生堂の魅力は、まずは“美”。オフィスも店頭も今までと全く違うドキドキ感がありました。そして、150年の歴史を礎にグローバル企業に成長するという目標に向かって、自分の経験を活かしつつ、未知なる経験ができそうなワクワク感。新しい世界での挑戦でした。2019年に退任して、ちょっとゆっくりしようかなと思う反面、心のどこかで「この経験を活かしたい」と思っていました。それこそJUASで何か皆さんのために経験を活かせないかな、とかね。そうしたら三菱マテリアルとの縁が生まれて。社長自らトランスフォームの意志を熱く語ってくださって、また新しい世界に飛び込んじゃった。

これまで経験させてもらったことは日本企業が向かうべきITの姿の一つ、ITの可能性そのものだと感じています。机上でないこの経験を新しい世界で活かしたいという気持ちと、それを後押ししてくれる人との接点が、いつもどこかにあるんですよね。

企業文化とは企業理念+仕事のやり方。本気で変えようと思うなら、変えられる

●では次に日本のDXについてお聞きしたいと思います。日本の企業のDXが進まない理由としてよく「企業文化が変えられない」と言われます。でも「企業文化」ってとても曖昧ですよね。
――そうですね。三菱マテリアルでは2020-2022中期経営戦略の中にデジタル化戦略を置いています。データとデジタル技術を使って、「新しい価値の創造」「オペレーションの競争力を作る」「ビジネススピードを上げていく」というのが3本柱です。そしてその基盤となるのが、「データ基盤」と「人材・企業風土と文化」です。

私は、企業文化とは、二つの側面があると思っています。一つ目はまず会社の持つ歴史や創業の魂。事業の中身は変化しようとも、企業理念や哲学、ビジョンとミッションの根本は変わらない。二つ目は仕事のやり方とか、仕事に対する動き方・考え方。日本でよく言われる、受け身の姿勢や上意下達の縦割りマネジメントといったことは経営者の意志や想いで変えられる。トップダウンにせよボトムアップにせよ、一番大切なのは、「本気かどうか」だと思います。

まさに今は変化の渦中です。その中で欧米に基準や規制などリードされるのではなく自分たちがリードしていくのだ、という気概を持ってやっていきたいですよね。そこでも肝になるのはやはり仕事に対する意志・行動だと思います。

これまでの体験から言えることは「経営者の本気があれば、企業文化は絶対に変えられる」。日産、資生堂、そして三菱マテリアルも、経営者がトップの責任として本気で会社を変えよう、変わろうとしている。これこそ変革の肝だと思います。

――DXを推進するには、まずは自社の今の仕事のやり方や考え方をしっかり理解すること。そして外の世界、例えば競合やお客様などのステークホルダーについてもしっかり理解しなくてはならない。それが基本中の基本。ただそれを徹底的に議論・理解しても、いざ実行しようとすると、そんなに簡単にはいかない。お金や人がいっぱいかかったり、高いハードルがたくさん出てくる中で、必死にもがく。その時に改革に対する「覚悟」が問われることになる。覚悟がないと途中で「大変だからやめた」って、めげちゃうんですよね。壁を乗り越えられるかは、本気の覚悟があるかどうかが大きな差になってくると思います。

日本の企業でDXが不要だと思う企業はないでしょう。でもDXはシステム化の先にある壁、まさに「第2ステージ」を乗り越えねばならないから難しい。変化を楽しめる人もいるけれど、仕事のやり方を変えることに抵抗を感じる人も多い。だから皆を同じ方向へ向かせるために、経営者の覚悟が問われるんです。

海外の方が短期志向で、日本は中長期志向だとよく言われますが、最近は逆かなと感じています。海外ではSDGsなど、企業の貢献を財務価値だけにとどまらず、非財務価値も含めて幅広くとらえているように思います。だからそこに投資して人材も育成している。日本の企業の場合、財務価値にフォーカスし過ぎるとカレントバリューにばかり目が行ってしまってフューチャーバリューに目が向きづらくなってしまう気がしています。今苦しくても、覚悟を持って変革の壁にぶつかっていくことが、将来の力になると思います。

人生100年時代、もっと知らない世界を見てみたい

●ずっと挑戦を続けている亀山さんですが、今後の夢や、やりたいことについて教えてください。
――いつまでも自分がいては若手が育たないなと思う反面、今は人生100年時代。あと10年ぐらい、日本のために何かしたい、もっと知らない世界を見てみたいと思ったりもします。企業って星の数ほどあるけれど、その一つ一つが可能性でしょう?その社長さんや創業者の方が本気で自分の会社を変えたいと思っていたら、少し自分も手伝ってみたいなと心の隅に想いがあって。今までの人生、会社の変革に向かってもがき続けたし、もがいたからこそ充実していた。そして一緒に取組んできた人や組織が成長して今も頑張っていること、これが私の喜び。そしてこの先は、自分の経験を次世代に伝えていくことも私の使命なのかな(笑)。

最後に、JUASへ一言

●ありがとうございました。では最後にこれからのJUASについて一言お願いします。
――ITなくしてDXは成し得ないですよね。されどITだけでもDXは起こせない。まさに今システム化の先にある、企業風土まで含めた変革の「第2ステージ」にあるわけです。そんなステージにあっては、たとえば会社の組織上、ここからはIT部門、ここからはデジタル部門、などという議論は不毛です。ITを基盤とする人たちが会社の経営を変える、まさにそんなステージが来ている。そしてそのステージならではの悩みにJUASの活動が応えてほしいと思いますね。

DXを実行するにはITが不可欠。でもDXを進めるには、IT部門だけでなくビジネス部門やCEOも一致団結していくことが不可欠だと思います。情報システム・ユーザーの協会として、素晴らしい会員企業の皆さんがJUASにはたくさんいらっしゃる。今まで以上に会員企業の取り組み、悩みを乗り越えた知見を互いに活かすような新しい取組みを、どんどん仕掛けていってほしいですね。

※ 掲載内容は2022年1月取材時のものです。
※インタビューはJUAS・三宅、姉川が担当しました。

<JUASとは>
・1962年設立の「日本データ・プロセシング協会」が前身。
1992年に組織を拡充・改組し、今の「日本情報システム・ユーザー協会」となる。
・主な活動:フォーラム、研究会、セミナー、イノベーション経営カレッジ、企業IT動向調査、JUASスクエア、プライバシーマーク審査

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