リレーインタビュー

第15回 日本航空株式会社 庄司稔 氏インタビュー

興味の先に広がる無限の可能性

庄司 稔 氏

日本航空株式会社 IT企画本部 IT運営企画部 グループ長

第一線で活躍する方々の経験と哲学をじっくりと伺うリレーインタビュー。 今回は、庄司氏に、ご自身の仕事の原点・想いなどについて伺った。

1992年 株式会社日本エアシステム(現日本航空株式会社)入社。チェックインシステムを担当したのち、インターネット基盤、インターネット予約システム、全社DWHの担当を経て、2018年よりIT企画本部にて技術戦略を担当し、ハイブリッドクラウド基盤構築、データ活用プロジェクトを担当。
JUASでは、2012~2014年度データマネジメント研究会副部会長、2015~2016年度データサイエンス研究会部会長、2017年度ビジネスデータ研究会副部会長、2018年~JUASデータエクスペリエンス研究会副部会長を務める。

インターネットの技術革新とともに

●キャリアについてご紹介ください。
――1992年に株式会社日本エアシステムに入社して、チェックインシステムを担当したのち、インターネット基盤、インターネット予約システム、全社DWHを担当し、IT関連会社への出向を経て、2018年よりIT企画本部にて、 ハイブリッドクラウド基盤構築、データ活用プロジェクトを担当しています。
現在は、DWHおよびETL、BIツールのシステムオーナーとしてシステム機能向上に取り組みつつ、 データ利用部門への活用推進施策(全社データドリブン活動)を主宰しています。ずっとITに携わっていて、もう30年になります。

●航空業界を選ばれた理由は?
――航空業界を選んだのは、乗り物全般が好きだったということもありますが、いかに効率的に飛行機を飛ばすか、そのための気象関係の勉強をしたかったこともあります。
中学生の時に天気図を書き始めました。先輩が教えてくれて、ラジオを聞きながら、気圧、風向、風速、気温を天気図に記入すると天気を可視化することができるのです。
普段皆さんも、なんらか予測ということをされていると思うのですが、その一つが天気ですよね。今日、自然災害は社会問題でもあり、そこにもいずれ貢献したいと思っていますが、当時は単純に天気図を書くことが楽しかったです。 
大学ではQCを勉強していました。統計も勉強しました。データ分析では統計のノウハウも大切なので、今となってはつながっているのかなと思います。

●一番思い出に残っているお仕事を教えてください。
――システム開発に30年携わっていますが、いま振り返ってみると、私の仕事はインターネットの普及と共にあった技術革新への取り組みだったと思います。
昔は飛行機の席の空港での割り当てはシールの台紙を使って行っていました。その後電子化して、座席管理はホストコンピュータでできるようになって、1993年、羽田空港が新しくなったときにシステム更新があり、今と似た形になりました。今日では、チケットも、紙からスマホになりました。
思い返せば、電子メールから始まり、ホームページ、ガラケーによる予約や、データ分析、クラウドネイティブなど、インターネット技術革新をビジネスに活かす仕事に携わることができたのは幸運でしたし、インターネット技術に触れることで成長することができました。

●技術はどう学ばれたのでしょうか。
――入社したときに、先輩から『日経コンピュータ』をどんと置かれて、読むようにと言われました。知らないと話にならないので、まず知ることが大切でした。マシンルームに入って自分でサーバーを設置したり、メモリ追加することもありました。今はセキュリティが厳しいのでマシンルームにも入れないので懐かしいですね。ネットワークについても、今はWifiでPCも繋がりますが、以前はLAN、有線でした。
今の若い人にはサーバーを組み立てたり、LANケーブルを繋げたりする機会がなくて申し訳ないと思います。動いている仕組みを知る機会がないのは残念だなと。私はちょうど面白い時代に携わることができ幸運でした。
障害が起きたときにシステムセンターに駆けつけて、原因調査もやりました。ログからロジカルにあれやこれやと探索することは飽きなかったです。嫌だとかつまんないと思ったこともなかったです。

●主宰されているデータ利用部門への活用推進施策(全社データドリブン活動)についてお聞かせください。
――現在、業務毎に様々なデータ分析をしていますが、そのデータが違う業務分野で利用できるところがあるかもしれないと考え、共創の場として活動し始め、3年目を迎えました。
メンバーには元パイロットや整備、貨物の人もいます。業務時間の2割をこの活動に充てています。自分のやっている仕事だけではなく、データ分析の面白さ、活用は無限であることをもっともっと知ってほしいです。

意見が違うのは、インプットなのかロジックなのか

●どんな仕事も興味をもって取り組まれたのでしょうか。
――IT関連会社に出向した際に総務人事の担当になったときだけは、興味をもって取り組めるのかが心配でした。しかし、総務・人事は会社、スタッフを守る大切な役割だということに気が付きました。給与計算を間違えるとその人の生活に支障をきたしてしまいますからね。
この時に、人材育成の仕事も経験しました。スキルを磨く研修だけではなく、ビジネススキル、社会人としての面白さを伝える研修を作りました。例えば、自分のキャリアを振り返って今後どうしていくか考える階層別キャリア研修を作り、実施しました。

●人事を経験して、何か変化がありましたか?
――全体を俯瞰して見られるようになりましたね。自分とは異なる考えを持っている方に対して、なぜこの人はこういう発言をするのだろうと、洞察力が身に付きました。インプットが違っているのか、ロジックが違っているのかと。インプットに誤解があるならそれを正せばいい。インプットは同じでなぜこういう発言なのか、となったときに、その人は何らかのロジックがあって発言しているはずで、そのロジックを知りたいという興味に変わりました。「知りたい」に変わると意見が違うことにも腹が立たなくなります。問題は、インプットかロジックなのか、両方なのか、その点を理解することで、こちらの考えも伝わりやすくなります。

ITの面白さを伝えたい、ITで命を守りたい

●今後の夢や、やりたいことがあれば教えてください。
――教育を通じて、ITの面白さを学生、とくに小中学生に伝えていきたい。特にITに関しては地域差があるのではないかと思います。東京など大都市にいるとリアルに触れる機会もありますが、地域によっては機会がないこともある。ITの面白さをリアルに伝える機会を作りたいです。
もっとおもしろい世界があるのに知らないだけ。例えば今いる環境でいじめなどがあったとしても、世の中ってもっと楽しいことがある。生きていく糧になることはこれからもっとある、世界ってすごく広いんだということを知ってもらい明日に向かっていけるような機会を作りたいです。

――あとは、地域におけるITの活用です。今は自然災害が多くて、土砂崩れなどで命を落としてしまう方もいます。命を助けられないITってなんだろうかと思います。ITは、命を救うということにもっともっと貢献できるのではと思っています。儲かるとか費用が下がるとかだけでなく、命を助けることにこそ真価を発揮できると思います。
位置情報をとる技術など、いろいろな多くのIT技術がありますが、儲けや利益、生産性向上などだけでなく、命を守ることに使いたいものです。

●座右の銘を教えてください。
――「拝むなら自分を拝め。自燈明、法灯明」という言葉です。
大河ドラマ「独眼竜政宗」における伊達政宗の師匠の虎哉宗乙和尚のお言葉です。他人をあてにしないで、自分自身を拠り所として照らし出す存在になれ。それができないときは、法、つまり真理を拠り所にせよ。そうして修行を重ねれば自燈明に近づく、という話です。他人任せにせず、他人のせいにせず、自らが道を切り開いて、決めて進む姿勢を持つことで、まぐれではなく真の実力を養うことになります。ただし、独断で決めるということではありません。決めるのは自分自身ですが、決めるために周囲からアドバイスをもらったり、正しい情報を集めて正しい評価をする等、人脈やビジネススキルを磨くことも併せ持つ必要があります。

垣根を越えて知識の引き出しをふやそう

●若手の皆様にこれはやっておいた方がいいということがあったら教えてください。
――1つ目は、業務とは関係ない資格に挑戦してみて欲しいということです。変化の激しい時代ですので、IT以外のノウハウを持っていることは強みになりますし、資格は客観的に証明できますので武器になります。
2つ目は、JUASスクエアの基調講演などで、普段お目にかかることのできない企業のトップの方の話を聞いて、自分の知識の引き出しを増やしてください。視点・視座が異なる方からの刺激を受けることで自身の視野を広げることになります。可能な限り、会場でお姿を見ていただきたいですね。空気感・オーラを五感で感じることで、より血肉にすることができます。

●庄司様にとってJUASはどのような場でしょうか。また今後JUASへの期待をお聞かせください。
――会社や業務では絶対にお会いすることができない方と出会い、刺激を受ける「場」です。企業の現場で起きていることに向き合う仲間が集い、議論し、自身で方向性を見出し、一歩を踏み出して、その一歩をJUASの仲間が応援できる、日々孤独に奮闘するITマンを優しく支えてくれる場所であってほしいです。
私自身、JUASで出会った方々からいい刺激を頂戴することで頑張ることができました。これからもJUASを通じて共に切磋琢磨していきたいです。
新しい技術ばかり追いかけるのではなく、安心安全に話して明日の活力になるような場(JUASサロン)を作ってほしいです。研究会の垣根を超えて集まる場があるといいですね。

※掲載内容は2023年8月取材時のものです。
※インタビューはJUAS 姉川、五十井が担当しました。

<JUASとは>
・1962年設立の「日本データ・プロセシング協会」が前身。
1992年に組織を拡充・改組し、今の「日本情報システム・ユーザー協会」となる。
・主な活動:フォーラム、研究会、セミナー、イノベーション経営カレッジ、企業IT動向調査、JUASスクエア、プライバシーマーク審査

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