リレーインタビュー

第10回 ANAシステムズ株式会社 藤本 礼久氏インタビュー

ありたい姿を大切に、熱意を持って挑戦し続ける

藤本 礼久氏

ANAシステムズ株式会社 代表取締役社長

第一線で活躍する方々の経験と哲学をじっくりと伺うリレーインタビュー。 今回は、ANAシステムズ株式会社 藤本 礼久氏に、ご自身の仕事の原点・想いなどについて伺った。

1988年全日本空輸株式会社入社。IT部門での開発運用経験を経て、IT戦略や部門業務改革を主導。システム関連会社の経営管理部門への出向経験を通じ、会社経営に関わる政策に携わった後、ANAグループの基幹系システムの統括責任者として、数多くのシステム企画や開発、ITサービスの安定運用に努める。2021年度より、ANAシステムズの代表取締役社長に就任。
JUASではUISS策定委員、人材育成研究会部会長等を務め、現在、IT企業TOPフォーラムにご参加。

ITに携わりたい、情報から会社の流れが見える

●藤本さんのキャリアについてご紹介ください。
――1988年に全日本空輸株式会社(以降ANA)の情報システム本部にIT職として入社しました。入社後、運航管理関連システムの開発運用に従事した後、企画管理部門に異動し、IT戦略・採用育成・予算管理・関連会社管理業務を経験。当時、全社業務改革プロジェクトに参画し、マリンジャンボの就航企画等を実施しました。

30歳手前で、営業部門に異動し、航空座席販売業務を実施した後、システム関連会社に出向して経営管理業務を経験。その後、ANAのIT部門に戻り、IT戦略を担当するとともに、大規模システム障害対応の観点でSLAやITIL導入、システム監視業務のアウトソーシングを実行、オフショア活用推進等のIT部門業務改革を実践。システム関連会社の経営部門に再度出向し、関連会社統合を実施後、インフラやデジタル企画業務を経験した後、再度、ANAのIT部門に異動しました。基幹系システムの開発運用統括としてデータセンター移転、基幹システムのマイグレーション企画等を実行した後、現在ANAシステムズの経営の舵取りを担っています。

●もともと航空のお仕事に興味を持たれていたのですか?
――もちろん航空業界に興味がありましたが、それ以上にITに携わりたかったですね。ヒト・モノ・カネの次に情報が来ると思っていました。情報の観点から会社をみると、会社全体の動きが見えるし、情報を活用したお客様サービス開発もやってみたいと思っていました。

自分のやれることに制限をつけず、常にチャレンジしていく

●思い出に残っているお仕事、ご自身が成長したと思ったお仕事を教えてください。
―― 一番を選ぶことは難しいですが、3つ挙げるとすれば・・・。

まず、入社3年目にANAの全社業務改革プロジェクトに参画したことです。IT以外の営業・旅客・整備・客室などの職種の方々や経営層との接点が生まれたことで、社内人脈もできましたし、広い角度からANA’s Wayを理解でき、高い視座からの物事の見方を早期に学ぶことができました。これは自分にとって財産になりましたね。

二つ目は、大規模システム障害を経験したことです。公共交通機関の社会的責任とシステムの重要性を再認識し、社会的信用の確保が事業運営の基盤であるという価値観を得ました。システム品質の向上に向け、障害統制組織の強化、ITIL・SLAの導入、24時間保守体制の確立、標準化プロセスの構築などの多岐にわたる施策を企画・実践しました。

三つ目は、基幹システムの開発運用統括責任者として、多くのプロジェクトのステアリングコミッティに参加し、様々な観点からのリスク分析と重要事項の判断力を高める経験を積んできました。そして、新たなことへのチャレンジ精神やDX推進のリーダーシップが身についたと思います。

●判断するときに意識されていることはありますか?
――チャレンジと無茶は違って、安全・あんしんの観点で外してはいけないところがあると思うんですよね。リスクの発生確率とその影響度を意識しています。例えばお客様が搭乗できない、飛行機が飛ばない、といったことは起こってはいけない。何よりもお客様の立場に立って考えることでしょうか。「このサービスは、お客様の幸せに結びついているのか」と常に考えるようにしています。

●新しいことへのチャレンジというお話が出ましたが・・
――若い頃の経験に基づく学びと成長が大きいですが、中堅・シニアとなっても業務を通じて多くの経験を得られます。だから、自分のやれることに制限を設けず、常にチャレンジしていく姿勢が大事だと感じています。

●空港スタッフの方が半年でIT開発現場の即戦力になられていると伺いました。
――コロナ禍の2020年11月、全くIT経験のない空港スタッフ30名をIT部門に迎えました。現場を何よりも知っていることが彼らの強みですから、当初はシステムのテストやシステム仕様が現場に馴染むかどうかチェックしてもらえたらと思っていたのですが、出向してきた皆さんはとても興味と関心を持ってITに関わってくれました。出向後、すぐにITパスポートや基本情報技術者試験などの資格を取得された方も数多くいます。ITに転籍を希望した社員もおり、実際に数名が転籍しています。

これは受け入れ側のIT部門にも変化をもたらしました。自分たちももっと頑張ろうと、良い化学反応が起こりましたね。

●若手の皆様に、これはやっておいた方がいいということがあったら教えてください。
――まずは、自分の柱となる得意領域を磨き、小さなチャレンジと成功を積み重ね、自らの業務に自信を持つことから一歩を踏み出してほしいですね。人に負けない柱、技術や業務で他人に負けないプロ領域を作ることは大事です。

併せて、自らのキャリアを描くこと。キャリアは自ら描くものだと思っています。5年後、10年後になりたい姿を描いてほしい。

そして、周りに対する興味を持ち、失敗を恐れず、勇気を持って新たなことに挑戦し続け、できることを増やしていってほしいと思います。

小さな苗木が巨木に変わるには、確固たる芯(得意領域)と成長のエネルギー(キャリア形成と挑戦)が大切ですから。

また、人との絆を広く持つことも大事だと思っています。様々な価値観を持つ多くの人との出会いが成長に結びつきます。15年位前に、JUASで夜集まって、議論したことも、今の自分の糧になっていますし、その時の出会いは一生モノですね。

一人ひとりの能力が最大限に発揮されるために、対話を繰り返す

●今後の夢や、やりたいことがあれば教えてください。
――自分自身、周りから育てられてきました。経験で培った様々な物事の考え方を後輩に伝え、彼らの成長に繋げていきたいです。現在、「働きがい・エンゲージメントの向上により創造性を発揮し、変革を実現することで価値の最大化を図る」を経営の基本方針に置いています。一人ひとりの多様な価値観に基づき、働きがいも人それぞれですが、能力を最大限活かせる職場環境づくりや風土改革に力を入れ、社員みんながこの会社で働いていることに誇りを持てるように頑張りたいと思います。

●風土改革のお取り組みとして何をされていますか。
――対話ですね。先ほど「キャリアを描くことが大切」と言いましたが、一方で、 “自らのキャリアが描きにくい”という社員の声が大きかった。そのため、社長就任後すぐに、入社3年目から35歳くらいまでの社員全員を対象に、ダイレクトトークを行いました。1グループ約7名と2時間くらい話して、入社時点から現在までの業務経験とその時のやりがいや成長実感を確認したり、周りからどう見られているか、自分の得意領域は何かなどを聴いたりして、自らのキャリアを考えてもらう対話を進めました。
 
●社長と話したいと思えば、誰でも話せるんですね。
――そうですね。ほかにも、ひまわりトークといって、業務時間内に月に2回、1時間の雑談の時間を設けています。仕事の話に限らず、話そうという会です。ざっくばらんに話していますよ。

ほかには、来年2023年にANAシステムズが10周年を迎えるにあたって、10年後のありたい姿を皆で話す機会を設けました。トップダウンでビジョンを示すよりも、皆で考えることで、目標に対する共感を大事にして、やっていきたいですね。

●人生において大切にしていることを教えてください。
――ありたい姿を大切にし、課題の本質を自分事として捉え、熱意を持って、粘り強く挑み
続ければ、道は開けると思っています。

●IT企業TOP フォーラム、IT部門経営フォーラム、人材育成研究会、UISS委員など多くの JUAS 活動に参加いただいてきた藤本様が感じる JUAS とはどんな場所でしょうか。
また今後 JUAS に期待することやアドバイスがあれば教えてください。

――JUASは、社外人脈形成と併せ、自社では得られない多様な価値観に触れ、刺激をもらえる場でした。若いうちにJUASに参加し、仲間を得たことは、本当に自分の財産になっています。だから、皆さんにもぜひその経験をしてほしいですね。

JUASへの期待としては、個社で解決できない日本のDXの課題解決に対するリーダーシップを発揮してもらいたいです。JUAS発のレポートや政策への提言などを期待しています。自社のITだけでなく、日本全体でどうしていくか、国にはどうしてほしいのかを訴えられるのがJUASだと思っています。私は15年前にUISSのプロジェクトに参加して、ITのユーザースキル標準について、皆さんと議論してきました。こういったことがまたできるといいですね。JUASの存在意義はそこにあるのですから頑張ってほしいと思います。

※ 掲載内容は2022年11月取材時のものです。
※インタビューはJUAS 姉川、五十井が担当しました。

<JUASとは>
・1962年設立の「日本データ・プロセシング協会」が前身。
1992年に組織を拡充・改組し、今の「日本情報システム・ユーザー協会」となる。
・主な活動:フォーラム、研究会、セミナー、イノベーション経営カレッジ、企業IT動向調査、JUASスクエア、プライバシーマーク審査

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