リレーインタビュー

第13回 金沢エナジー株式会社 村井 祐樹氏インタビュー

八転び九起きの先に見える景色

村井 祐樹氏

金沢エナジー株式会社 地域エネルギー企画部 企画課 リーダー (課長)

第一線で活躍する方々の経験と哲学をじっくりと伺うリレーインタビュー。今回は、金沢エナジー株式会社 村井 祐樹氏に、仕事をする上で大切にしている価値観、情報システムに携わる人への想いなどについて伺った。

1994年東邦ガス株式会社入社。社内のIT企画・ガバナンスを推進し、長期的なIT投資計画・効果策定、人材育成プロセスの策定、情報セキュリティなどを整備。東邦ガス最大の基幹システム「お客さま情報システム」構築のプロジェクトリーダーを担務。2022年12月から金沢エナジー株式会社に出向し、情報システム部門のリーダーとして、新しい会社のIT運営全体の整備に取り組んでいる。
JUASでは、2018年度から2022年度までIT投資ポートフォリオ研究会部会長を務める。

まさかの情報システム部門配属からスタート

●キャリアについてご紹介ください。
――東邦ガス入社後、約20年間システム開発に従事しました。そのうち、2010年から2013年の稼働まで、当社最大の基幹システム「お客さま情報システム」構築のプロジェクトリーダーを担務しました。その後、2017年4月都市ガスの全面自由化対応に向け、事業全体のIT基盤整備に向け大手都市ガス会社3社での共同検討に従事しました。
2017年から5年間は、IT戦略・企画スタッフとして、全社中長期経営計画に基づき、IT戦略や投資計画策定を担当しながら、IT投資額や投資対効果の可視化、人材育成プロセスの策定や情報セキュリティの強化(CSIRTの推進)などヒト・モノ・カネ・リスクを中心にITガバナンスのルールを整備しました。
2022年12月に、同年4月から新たにエネルギー事業を開始した金沢エナジー株式会社に出向し、情報システム部門のリーダー(課長)として企業全体のDX化推進、基幹系システムの構築、IT運営全体の整備に取り組んでいます。

●最初からIT部門を希望されていたのですか?
――新卒採用で同期が文系20名、理系20名。文系のうち2人はシステム担当と聞いていたものの、まさか文系でコンピュータに全く興味がなかった私が情報システム部門に配属されるとは思ってもみませんでした。東邦ガスはローテーションが多いほうですが、ちょうど一人1台のPCが入り、インターネットが普及して、業務のシステム化が進む時期に当たったからなのか、ずっとシステムの現場でした。若い時は毎年異動希望を出していましたが、2010年の大規模基幹システム構築のプロジェクトリーダーをやるようになった頃から「ここまできたらこの道でいくのだな」と思うようになりました。
今もですが、テクノロジーに対して冷めた目で見ているほうだと思います。その分、実現したいことがあっても、事業やサービスとして何をやりたいか目的を明確にすることを優先し、手段(技術)からは入らない。手段を目的にしないというのが私の特徴かもしれません。

プロジェクトを推進するためには内弁慶とは言っていられない

●一番思い出に残っているお仕事、ご自身が成長したと思ったお仕事を教えてください。
――何かひとつというよりも、IT戦略、IT企画、IT投資計画を立案するような超上流やIT基盤計画、情報セキュリティ・人材育成・IT投資対効果検証、現場では大規模基幹システムのプロジェクトリーダーや施策開発など事業会社の情報システム部門で必要な業務をほぼ全てまんべんなく経験して、情報システム部門が経営に与える価値がわかるようになりました。また、社内ではこれらの仕事を通じて経営層から他部門まで、社外ではJUAS研究会の部会長職などを通じて異業種他社の幅広い人脈ができ、得た知見を事業に取り入れることができるようになったと思います。

●さまざまな業務をご経験されていますが、新しい分野にはどのように取り組まれるのですか?
――例えば、ガスの自由化の対応でIT対応の取りまとめ役になった時がそうでした。ガス事業の自由化で事業構造が大きく変わる。IT以前に法律や制度がどう変わるかもわからない、会社としても誰もわからない状況でした。ただ、幸い電力の自由化対応は一年早く始まっていたので、電力の自由化に関わっていた社外の知り合いの方数名にいろいろと教えてもらいました。新しいことをするときは社内外の有識者から情報収集しまくります。自分自身にはあまり新しいことの知見がないのですが、各分野の有識者を知っているというのが強みです。

●若いときからいろいろな方とのコミュニケーションが得意だったのですか?
――いえ、もともと内弁慶でもあったし、小さなプロジェクトで、知っている人の中だけでやれることが好きでした。でも、2010年からの大きなプロジェクトでは、必要とする知見や関係者が多く、今までのやり方では通用しません。思い切って自分から話しかけ、飲みに行くことも含めてコミュニケーションをとるようにしていきました。
JUASでも、初めて部会長として壇上に立った時は、みんな無表情で、とても緊張したことを覚えています。でも、コミュニケーションを重ねるうちに、聞いている側はそういうものだとわかったし、回数を重ね、一緒に飲んだ瞬間からみんな笑いだします。相手の一つひとつのリアクションに右往左往するのではなく、積み上げていけばちゃんとコミュニケーションが取れる日が来ます。
特に大きなプロジェクトでは、関係者は多様です。ビジネスの世界でのコミュニケーションとは、考え方に齟齬がないように進めていくために、一番話しにくい人に一番言いたくないマイナス情報をはっきり具体的に伝えることが重要です。勇気を出してやり続けていくうちに、度胸がつき、できるようになっていったということですかね。今は抵抗感がありません。初対面の方とでもサシで飲みに行けますね。

続ける粘り強さ、それを支える多様な視点と経験

●人生において大切にしていることや、座右の銘を教えてください。
――私の造語ですが、「八転び九起き(やころびくおき)」。7回転んで8回目も転んで、トドメを刺されてもうダメだと思ったとしても、もう一度起き上がり挑戦する。仕事をしていると、つらいことが連続し、不公平で理不尽な思いをすることが多いですよね。でも自分だけこういう目にあっているわけじゃないって思うことが大事なんじゃないですかね。それをどう受け止めて処理するか、気持ちを切り替える技術のほうが大切だったりする。
サッカーの長友選手も言っていましたが、出来事に対して人間はネガティブに考えてしまうものなので、意識的に視点を変えてポジティブであろうと心がける。それはひとつの技術であると。本当にそうだなと思います。

――また、ひとは悪いことには囚われて反省・改善を繰り返すのに、良かったことやうまくいったことはやり過ごしてしまうものです。良かったこと、できたことこそ振り返って、「ああ、こういうふうにしたから良かったのだね」と成功体験を検証する割合を増やし、それを続ける。経験を増やして視点を広げていく。そうやって進んでいく前向きな粘り強さを持ちたいと思っています。そのためには、人から言われたことをやる受け身の姿勢でなく、自分自身に強い意志とか信念みたいなものを絶えず持ち提言・推進していくことが必要なのかもしれませんね。

――あと、人間は調子が良いと傲慢に、調子が悪いと卑屈になりがち。そうならないように、どんなときもフラットな心持ちでありたいと思っています。いつも普通でいるということが案外一番難しいですよね。

●今後の夢や、やりたいことがあれば教えてください。
――仕事については、これからも事業会社の情シスの立場で、ITやDXを駆使して事業発展に寄与したいと思っています。そして、企業の情シスの役割について考え方を伝えていくことができればと思っています。定年退職したら、事業会社へのコンサルティングもやってみたいですね。そして、私は名古屋出身で、今は金沢に住み、東京でも活動しているので、ITだけでなく働き方や文化も含めてそれぞれの良さを双方向に活かしあえるような伝承者になれないかなとも思っています。

――プライベートでは、自然に接したいという気持ちが年々高まっていて、最近では野菜作りや、バードウォッチングを始めました。金沢に来たので、今度は釣りや魚のさばき方を勉強したいなと思っています。

●若手の皆様にこれはやっておいた方がいいということがあったら教えてください。
――とにかく外に出て人間力を高めることだと思います。ITやDXの技術を磨くことも大事ですが、情シスの人は会社に籠った、特殊な人だとみられがちです。そうするとますます社内の人からも、コンピュータは特殊だから情シスの人に任せてしまおう、となる。
特に、ITの施策を経営者に説明するときには、いい意味で普通のビジネスマンになりましょう。専門的な内容をそのまま説明するのではなく、その立場の人に伝わるように翻訳することも技術です。ITの技術そのものを追求するのではなく、その技術(道具)をどうやって活用してビジネスに結び付けるのか、周りの人に納得してもらって推進するのか、会社の事業を支えていくのかということが大事です。
映画、音楽、文学、スポーツなどの文化的な教養も高めて感性を磨くことも、話しやすい、頼まれやすいということも、DXを進めていく中で今後さらに必要になっていくと思います。
JUASの研究会のような会社とは別のコミュニティにも、ぜひ積極的に参加してほしいですね。できれば部会長のようなリーダーにも挑戦してほしいです。まったく利害関係のない初対面のメンバーにリーダシップを発揮する経験は何事にも代えられない貴重な財産になります。

研究会の外へ向けた発信にチャレンジする

●村井さんにとってJUASのIT投資ポートフォリオ研究会はどのような場でしょうか。これからこのテーマに取り組む方へメッセージをお願いします。

――この研究会は、事業会社のIT予算、投資をどうすべきかを考える場です。技術がテーマであれば、他社の事例を聞いて自社に転用できる場合もあると思いますが、IT予算、投資の判断となると、事業の背景となる企業の戦略や文化が違うので、各社の事例そのものはあまり役に立ちません。しかし、みなさんが持っている課題は共通で、主にIT予算、投資を決めるための枠組みがないことです。このため、この研究会では、事業会社がIT投資をしていくことに必要な検討軸、価格やコストの「ものさし」となる指標づくり、IT戦略を進めていくうえで必要な枠組みやフレームを業界として新たに作ることに注力してきました。
今までにない分野ということで、日本ファンクションポイントユーザ会のような他の団体との共同研究や共同発表、雑誌記事の執筆(経済調査会『積算資料』2021年11月号)やJUASスクエアなどへの登壇など多くの発表機会を通じて、発信してきました。皆でアイデアを出しながらひとつの新しい形を作り上げることで研究会メンバー同士の強い繋がりができるし、アウトプットは研究会以外の方々にも役立つという両輪を狙っています。世の中に役立つ新しいものを研究会メンバーで作り上げたいという方にこれからも参加していただきたいと思います。そして、ぜひ、JUASに関わるみなさんは、研究会の外の人に向けたアウトプットを作っていきませんか。完成しなくてもトライしていくのがよいのではと思います。

●今後のJUASに期待することやアドバイスがあればお願いします。
――研究会に送り出す会員企業の方と共有したいこととして、研究会の参加費の本質的な意味は、お金をJUASに支払っているのではなく、会社が参加者自身に投資をしているということです。参加者自身がどう動いて何を持ち帰るのか、本人がやりたい方向にどれだけ行動できたかが自らの成果発揮が大切です。各社でそういった会話をしてもらえると参加者の励みにもなるのではと思っています。
今の研究会活動は、1年単位で人が入れ替わるため、離陸したと思ったらすぐ着陸、と感じるくらい時間が足りません。多くの人と出会えるという点はよいですが、複数年続けられるような研究会があってもよいと思います。そして、そういった研究会にはJUASから、世の中に成果を発信してくださいともっと言ってよいのではと思います。

※掲載内容は2023年1月取材時のものです。
※インタビューはJUAS・五十井、関口が担当しました。

<JUASとは>
・1962年設立の「日本データ・プロセシング協会」が前身。
1992年に組織を拡充・改組し、今の「日本情報システム・ユーザー協会」となる。
・主な活動:フォーラム、研究会、セミナー、イノベーション経営カレッジ、企業IT動向調査、JUASスクエア、プライバシーマーク審査

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