リレーインタビュー

第14回 株式会社ジール 佐々木 盛朗氏インタビュー

何かの名前を知ることと、その何かを知ることは別のこと

佐々木 盛朗氏

株式会社ジール アプライドアナリティックス&インテリジェンスユニット 上席チーフスペシャリスト

第一線で活躍する方々の経験と哲学をじっくりと伺うリレーインタビュー。 今回は、佐々木 盛朗氏に、ご自身の仕事の原点・想いなどについて伺った。

東京大学理学系研究科の修士課程を終了後、日本電気株式会社に入社。中央研究所においてコンピュータサイエンス(ハイパフォーマンスコンピューティングとデータベース)を研究し、成果には次が含まれる。
https://adms-conf.org/2013/sasaki_adms13.pdf
経営学(経営戦略、https://core.ac.uk/download/286930429.pdf)の研究にも取り組み、その後、これらの背景に基づいて、株式会社ローソン等でデータサイエンスの領域での業務に従事した後、現職。
JUASでは、2018年度から2022年度JUAS AI研究会の部会長を務める。

研究職からビジネスの現場へ

●佐々木さんのキャリアについてご紹介ください。
――大学院卒業後の14年間は、電機メーカーの研究所でハイパフォーマンスコンピューティングとデータベースの研究に従事しました。この時にMBAを取得しました。その後、大手コンビニエンスストアに転職し、データサイエンスチームと情報系システムの保守運用チームのマネージャとして、事業会社の立場から複合的にデータに関与しました。現在の会社では、データサイエンス/AI領域での案件の、企画、提案、受注、開発、保守においてマネジメントとコア技術開発の観点で従事しています。

●研究職時代はどんなお仕事だったのですか。
――コンピュータを速くすることが大きなテーマでした。当時はコンピュータ処理を速くすることが直接利益につながりました。コンピュータサイエンスの対象には、ハードウェア、OS、その上のアプリケーションなどが含まれ、どこをどのようなバランスで速くしていくのか、そういったことを研究できたのは面白かったです。

●研究職の時に、MBAを取得されているのですね。
――データベースを研究する中で、ビジネス側の要件を取り入れることが多くなっていました。そこで、ビジネス的な観点をもっと学び、事業に貢献したいと考え、2008年から会社の国内留学の制度を利用して大学院に通い、MBAを取得しました。

●一番ご自身が成長したと思ったお仕事を教えてください。
――MBAを取得した直後に取り組んだ、データベースのインデックスの研究です。ビジネス的な観点から技術的なテーマを設定した最初の研究でした。論文として採録され一定の評価をいただきました。一方で、事業展開を想定した研究でしたが、当時の組織の中で実現するには時間がかかりそうだとも感じていました。
その後、直接事業に貢献するという観点から技術を扱ってみたいと考えるようになり、より広範な業務に従事できるよう転職しました。

自然科学 VS 社会科学

●佐々木さんのデータサイエンスとの出会いはどこからですか。
――2008年に入学した大学院での統計学の講義が最初です。データサイエンスというとコンピュータの話と思われますが、私は、経営学の統計学から入っています。
研究職時代は、コンピュータサイエンス、つまり概ね自然科学の分野が対象でした。一方、経営学は社会科学です。自然科学は、数学で記述できる世界で、例えば、ボールをこう蹴ったら、次にこうなると言える再現性があります。ビジネスの世界では、いつも同じ環境を作れるとは限らないため、数学ではなく統計学で検証していく必要があります。自然科学と社会科学は、課題解決のためのアプローチも道具も違います。

●データサイエンスのお仕事を少し教えていただけますか。
――例えば、家計簿データ(レシートデータ)を基に、ペットボトルのお茶の販売状況を分析したい場合、商品名からそれが「お茶」であると分類して、お茶の売上を集計しなければなりません。そこでAIを活用して、商品名からのカテゴリ分類を実施しました。ただ、当時は、「茶」という単語が入っていない商品名や、「茶」を単語として正しく切り出せない商品名を、お茶に分類することが難しかったです。このような場合の対応をするために、AIに追加の学習もさせました。

――また、AIの技術を教えるという仕事もあります。最近はお客様から、実践的な学習を伴う依頼が多くなりました。自分たちでAIを使いたい、そのためのプログラムを書きたいというものです。例えば「扱っている機器の故障を予測し、故障の前に部品を交換したい。自分たちで回帰分析をしてみたけれど、うまく予測できない。」という場合には、サポートベクタマシンを使うことを提案しました。サポートベクタマシンがどういうもので、どう使うのかを説明し、サンプルプログラムをお渡ししました。お客様自身でサンプルに対してコードベースで必要な変更を加え、保有データに適用していただきます。その際に、コード変更や、分析方法、結果の見方などについてサポートしました。最初は学ぶ状況を整備して、あとは自分たちで作り活用していくことが、事業会社で今後もっと増えていくのではないでしょうか。

ボトルネックを知りたい、解消したい

●今後の夢や、やりたいことがあれば教えてください。
――自然科学と社会科学にはそれなりの時間を費やすことができましたが、これからは、人文科学の領域での知見を増やしたいです。「批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義」という本に書かれていたのですが、フランケンシュタインの小説の中で文学的なテクニックがたくさん使われていて驚いたことがあります。この物語は造物主に見放された非造物の物語で、描かれるシーンがキリスト教のある場面を背景に描かれているとか、自分が持っていなかった視点からの分析がされていました。このようなことを学び、今まで気づいていなかった問題にも目を向けられるとよいなと思います。

――世の中にある問題を認識し、ボトルネックを理解して、それを解消したいですね。自然科学や社会科学で解ける問題にいろいろと挑戦してきましたが、人文科学の分野には私の気づいていない問題がたくさんあるはず。それを解決する力を持てるといいなと思います。

●あらゆる知識分野への興味やお取組みに驚きます。子どもの頃からそうだったのですか。
――本を読むのが好きでした。時間がたっぷりあったので、厚めの本もたくさん読んでいました。これが論文を読み込み、多くの情報を扱うことが苦にならないことの土台になっているかもしれません。

視点を変えて理解する、体験する

●若手の皆様にこれはやっておいた方がいいということがあったら教えてください。
――自分の提供する業務アウトプットを受け取る立場となってみること。逆もまた同様で、他者から受け取っているアウトプットを、提供する立場として取り組んでみること。つまり、視点や立場を変えて取り組むことがいいのではと思っています。例えば、自分の研究した技術がソフトウェア製品になるとどうなるのか、運用していく、使う側になるとどう見えるのか、そういうことがわかると、より活用される研究になります。
事務処理など普段自分ですることがほとんどなかった仕事を、いざ自分が引き受けてみると大変だなとわかります。人にお願いすることはそんなに軽くないと身をもってわかることが大切だなと思います。私自身、転職して立場が変わって、体験してわかったことも多いです。

●座右の銘があれば教えてください。
――何かの名前を知ることと、その何かを知ることは別のこと(次より抜粋)。
“You can know the name of a bird in all the languages of the world, but when you’re finished, you’ll know absolutely nothing whatever about the bird… So let’s look at the bird and see what it’s doing — that’s what counts. I learned very early the difference between knowing the name of something and knowing something.” – Richard Feynman

●佐々木さんにとってAI研究会で過ごす時間はどのような時間でしょうか。これからこのテーマに取り組む方へメッセージをお願いします。
――AI研究会の立ち上げ時に、当時ビジネスデータ研究会の部会長だった海老原さんから、AI研究会を立ち上げないかとお電話をいただきました。その頃、私は学会に参加するなどの経験はありましたが、もう少し広い世界を見たいと思い引き受けました。
研究会には、異なるバックグラウンドを持つ方々が参加されます。それぞれがAIをどうみて、どう使っていきたいのか、どう売っていきたいのかを知る、視点を変えて見て、その関連性を知ることができる楽しい時間でした。パーソナルな場でのお酒を交えた交流も楽しかったです。

――これから取り組む皆さんには、AIに関する技術、それを活用するビジネス、ともに色々な言葉が出てきますが、言葉を覚えるのではなく、言葉が表すものを理解いただくことが有益であると考えています。

●今後JUASに期待することやアドバイスがあればお願いします。
――他組織とのつながりがもっとあるとよいのではと思います。アカデミックなつながり、他の一般社団法人とのつながりを持ち、研究会を運営する上で反映されているとやりやすいのではと思います。また全国の会員さんがより集まりやすいよう、各地に支部があるといいですね。

※掲載内容は2023年3月取材時のものです。
※インタビューはJUAS 姉川、五十井が担当しました。

<JUASとは>
・1962年設立の「日本データ・プロセシング協会」が前身。
1992年に組織を拡充・改組し、今の「日本情報システム・ユーザー協会」となる。
・主な活動:フォーラム、研究会、セミナー、イノベーション経営カレッジ、企業IT動向調査、JUASスクエア、プライバシーマーク審査

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