リレーインタビュー

第16回 横河電機株式会社 舩生 幸宏 氏インタビュー

変革は浸透、10回言い続けると実現する

舩生 幸宏 氏

横河電機株式会社 常務執行役員(CIO) デジタル戦略本部長 兼  デジタルソリューション本部 DXプラットフォームセンター長

第一線で活躍する方々の経験と哲学をじっくりと伺うリレーインタビュー。 今回は、横河電機の舩生氏に、ご自身の仕事の原点、変革を進める上で大切にされていることなどについて伺った。

1990年NTTデータ入社。その後、ソフトバンクファイナンス(現・SBIホールディングス)を経て、2003年にソニーへ移り、グローバルITトランスフォーメーションを推進。2018年横河電機の執行役員(CIO)兼デジタル戦略本部長に就任。2019年からデジタルソリューション本部DXプラットフォームセンター長を兼務し、お客様向けDXサービスの企画開発を担当。
JUASでは、CIOエグゼクティブフォーラム、未来ビジネスフォーラムに参加。

先進的なプロジェクトの経験、海外の仕事のスタイルを知る

●キャリアについてご紹介ください。
――大学での専攻は理論経済学で文系でしたが、パソコンが好き、数学が好き、ということがあり就職ではIT業界にフォーカスしました。1990年、NTTデータに入社して10年間金融システム構築に携わりました。金融業界といっても勘定系ではなく、いわゆるデリバティブ商品等のディーリングシステムで、当時としては業務も使っている技術も最先端でした。10年間のなかでオブジェクト指向やソフトウェアエンジニアリングなど先進的なことを経験させてもらいました。
その後、ソフトバンクに入社し、3年ほどインターネット金融事業の立ち上げを主に行なっていました。当時のベンチャー企業では、キャリアとしての最終目標はベンチャー企業のCEOになることでした。私はITもやりたかったし、経営的なこともどちらもやりたかったので、CIOが一番近いポジションだと考えるようになり、そのころソニーがCIOをサポートする役割を募集していたのでそちらへ移り、15年ほどITの企画、グローバル化、組織改革に携わりました。途中、4年ほどシンガポールへ赴任し、海外での仕事も経験させてもらいました。
そして現在、6年前から横河電機でCIOとして仕事をしています。

●一番思い出に残っているお仕事、ご自身が成長したと思ったお仕事を教えてください。
――一番思い出に残っているのは、NTTデータで2年目くらいの時の仕事です。当時、24、5歳だったと思いますが、プロジェクトマネージャーを任され、30人くらいのチームをまとめていました。プロパーは2名で、他はすべて協力会社でした。利用する技術も新しい上に、当時はPMBOKなども普及していませんでしたので、進め方もまったく分かっていない中で、やりながら覚えました。とにかく体で勝負!という感じでギリギリのところで仕事をして、家に帰れず、これが限界、というところを知りました。2年くらいやりましたね。上司はいましたが、なにしろ最先端業務・技術なので社内で誰もが解らない。当時は海外の文献しかありませんでした。英語はそれほどできなかったのですが、大学の時にゼミで海外の文献を読むトレーニングを受けていたため、なんとか乗り切ることができました。

成長したと思ったもう一つの仕事は、シンガポールに赴任したことですね。ここでグローバルの仕事のスタイルを覚えたことが大きかったと思います。40歳前後の頃に赴任しましたが、今まで当たり前と思っていた日本の仕事の進め方がマイナーであることを知りました。仕事のスタイルや、期待が違う。例えば海外の視点からだと、日本は品質を求めすぎだし、時間をかけすぎだと映ることが分かりました。

マーケットとともに仕事もグローバルで

●横河電機に着任されてから体制等を含めて大きく改革を進められている印象があります。DXを推進するうえで大切にされていることを教えてください。
――まず、日本の製造業の問題としてグローバルマネジメントが十分に機能していないということがあると思います。国内にとどまらず海外に視野を広げる必要があります。ご存じのとおり、すでにマーケットは海外に移っています。しかし、仕事のスタイルが日本流のままであることが大きな問題だと思っています。今まではこれがまかり通っていましたが、ビジネスがグローバル化しつつある今、グローバル最適化を進めないとこれからは勝てません。グローバル最適化の改革をまさに今進めているところです。まずは、サイロ化されたデータを統合します。このことでDXが進みやすくなります。DXの肝はデータの活用ですが、データがばらばらにあると集めるのが大変で、活用までなかなかいきません。効率的にDXを進めていくために、ビジネスプロセス・システムのグローバル最適化が重要だと思っています。

人材育成については、もともとオンプレミスや旧来の技術を使った技術者が多く、最先端の技術を使う人材へのリスキル化が大変です。特に日本はより大変と思っていますので、グローバル化して健全な競争してもらい、スキルを高めてもらうトレーニングメニューを設けています。DX人材はロールを決めて資格を定義し、これを取得してもらいます。スキルはクラウドとAIにフォーカスしています。

●ガラッと変えていくのは大変だと思います。抵抗はなかったのでしょうか。
――IT部門としての抵抗はもちろんありますが、グローバル化すると英語での仕事が主になるため、その抵抗がありました。ここは時間をかけて、できるところからやっていくようにしました。一番やりやすいインフラからはじめ、少しずつ英語で仕事をするように持っていきました。ビジネス側としても売り上げの7、8割は海外なので、グローバル化は進めざるを得ないのはみなさん分かっています。また、内心やりたくないという気持ちもあったと思いますが、社員1万7千人のうち外国人が1万人以上というなかでやらざるを得ないという状況であったと思います。ですので、そこまで大きな抵抗がなかったということが幸いでした。

●記事を読む若手の皆様に、これはやっておいたほうがいいということがあれば教えてください。
――先ほどNTTデータ時代の苦労話をしましたが、本当は自分の限界を知ることが大事だと思いますが、今の時代そんなことできないですよね(笑)。
やはり、海外に出たほうがいいなと思います。私は40歳くらいでシンガポールに赴任しましたが、できたら30歳前後くらいに海外へ行ったほうがその先の伸びが違うと思います。海外に行くと、仕事のスピードが違います。日本で1年かかるものが3か月で終わる。つまり、海外にいると3倍、4倍もの経験が積めて成長が早いのです。そして、日本を客観的に見る経験を得ることができます。

●今後の夢ややりたいことがあれば教えてください。
――CIOの仕事が一段落したら、アジアや発展途上国に行って成長を助ける仕事がしたいと思っています。ITを使って、これから成長していく、または今成長途中の企業などをサポートしていきたいと考えています。

変革はフレームワークを作ることが大事

●変わっていく大きいストーリーの核はどういうところからできてくるのでしょうか。
――大体の技術的な方向性は決まっていますね。流れに従って、組織・社員がどうステップアップしていくか。例えばDXを進めるにはデータ活用が必須です。とはいってもデータがばらばらで使えるものがない。データを集めるにはまず最適化。データが集まったらBIツールを使う、そしてその次のステップといったような感じです。ゲームのレベルアップと同じで、そのゴールをうまく設定することが大事ですね。
一つ重要なのは、中長期的な流れは事前に共有したほうがいいということです。こうなっていくんだ、今ここにいるのだということが分かったほうがいいです。一番不安になるのは、自分が今どこにいるか分からないことです。大体の流れを提示して、ポジショニングが明確になるということはとても大切です。

●大きいストーリーをシェアするときのポイントはありますか。
―― 一番重要なのはフレームワークを作るということですね。フレームワークというのは、「あなたの考えていることをポジショニングする」ということです。この整理されたフレームワークのなかで、あなたの考えていることはここに当たります、とポジショニングをすると人は安心します。自分が考えていることと、全体の関係性が分かることで、自分の今いる場所が分かり、次に何をするかがはっきりします。フレームワークは100%の品質ではありません。全体的な流れがあり、ぼやっとしたものでいいのです。むしろ、細かい情報を与えすぎると各論に入ってしまい良くありません。私は若い時にデータモデルやアーキテクチャ、オブジェクト指向などを学び、こういった全体像を作成するスキルを学ぶことができましたが、日本人には苦手なスキルだと思います。アーキテクチャについては若い時から学んでおいたほうが良いですね。

変革は浸透、何度も言うことで「普通」になる

●人生において(仕事をするうえで)、大切にしていることを教えてください。
――私の変革の経験で言うと、「10回言うと実現する」ということでしょうか。変革は言わば浸透です。例えばDXという新しい言葉に対して、3回くらいまでは人は抵抗するんです。なんか嫌だな、怪しいなと。それが5回くらいになるとだんだん耳が慣れてくる。良く分からないけれどDXね、というレベルになる。そして10回にもなるとそれが普通になってくるんです。DX、DXと言っているけれど、それ何か進んでるの?やってるの?と相手から突っ込んで聞いてくるようになるんです。そうなってくるともう浸透しているので、あとは実行して結果を出す段階です。

ユーザー企業が強くならなければDXは進まない

●舩生様にとってJUASとはどんな場所でしょうか。今後JUASに期待することやアドバイスがあれば教えてください。
――ユーザー企業が集まる場として重要なコミュニティだと思っています。日本は欧米に比べてIT部門が弱いです。その原因として、日本はITベンダーのほうが強いということがあります。アメリカのIT人材はユーザー企業に7割、ベンダーに3割の割合です。日本はその逆です。JUASのようなところを活用して、ユーザー企業のIT部門を強化することが重要だと思っています。ITベンダーがいくら力を持っていても、実際に企業内に適用するのはユーザー企業のIT部門です。ここが強くなければ結局DXは進みません。まさに、ユーザー企業のIT部門を強化するというその立ち位置にJUASはいると思っています。

※掲載内容は2024年1月取材時のものです。
※インタビューはJUAS五十井、橋本が担当しました。

<JUASとは>
・1962年設立の「日本データ・プロセシング協会」が前身。
1992年に組織を拡充・改組し、今の「日本情報システム・ユーザー協会」となる。
・主な活動:フォーラム、研究会、セミナー、イノベーション経営カレッジ、企業IT動向調査、JUASスクエア、プライバシーマーク審査

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