企業IT動向調査コラム

第2回 テーマから読み解く

VUCAが企業ITに投げかけるイシュー

志村 近史 JUAS企業IT動向調査部会 リサーチフェロー 

2022年9月

2022年度の企業IT動向調査は「予測困難なVUCA時代を乗り越えるIT部門の役割」をテーマに掲げました。
このテーマの背景にある、企業ITとVUCAについて、当調査リサーチフェローの志村氏に読み解いていただきました。

VUCAが企業に投げかけるイシュー  (志村 近史 JUAS企業IT動向調査部会 リサーチフェロー)

企業IT動向調査2023(22年度調査)の重点テーマは『予測困難なVUCA時代を乗り越えるIT部門の役割』である。
さて、VUCA(ブーカ)という言葉を耳にすることが増えてきたとはいえ、まだなじみのない方も多いのではないか。

予測困難なという意味でいわれるが、VUCAという言葉を因数分解すると、変化しやすく不安定なことを意味する「変動性(V=Volatility)」、不規則で確定できない変化を意味する「不確実性(U=Uncertainty)」、多くの要因が相互に依存することに伴う「複雑性(C=Complexity)」、因果関係や先例がないことによる「曖昧性(A=Ambiguity)」の頭文字で、そう考えると深い問題提起が込められているように思われる。

さて、多様化する価値観や新たな社会的ニーズに応じた商品・サービスの事業化を考えてみよう。
こうした新事業の開発は企業にとって重要な課題であるが、問題となるのはそうした新事業にとっての市場が変化しやすく不安定であることや、不規則で確定できないことである。つまり、ここで問われているのは、変動性(V)と不確実性(U)への対処である。

そこで注目されるのはいわゆるデジタル化で、例えばAIなどを使って需給の変動性(V)を予測しサプライチェーンにおける不確実性(U)を制御して資本の回転を高めるといったことなど、データの高度活用によって事業価値を創造する様々な取組が始まっている。
対して、これもまた企業にとっての大きな課題だが、事業組織や企業連携などの構造変革、いわばトランスフォーメーションに伴う問題は、多くの要因が相互に依存し、また先例がなく因果関係もはっきりしないために、全体構造を見通すことが難しいことにある。ここで問われているのは、複雑性(C)と曖昧性(A)への対処である。

例えば構造変革に伴うレガシーシステムの刷新について考えてみよう。
この場合システムの刷新に伴う投資は、直接的に収益増大に結びつくとは限らず、投資対効果を正しく評価するにはシステムと組織やビジネスの多面的要因とその関係といった複雑性(C)がもたらす短期長期の波及的効果やリスクも評価に織り込まなくてはならないだろう。

また、業態転換やM&Aに伴う、異なる企業風土やシステムの連携、あるいは高度な情報技術の活用や新たな開発手法の採用、さらにはこれらに応じた新たなスキルを持った人材の確保といったことを考えると、これまでのIT部門の経験では見通しも立たず、具体的なイメージも定かでないという意味で曖昧性(A)が大きく、どうやって対処したらよいか、その道筋を模索する途上にあるのが実情ではないだろうか。

以上は、IT部門にとって新たな壁をどう乗り越えるかという問いかけと受け止めることができるが、一方で、IT部門の存在価値を高めていくチャンスとしてどう活かすかという問いかけと捉えることもできるだろう。
では、投げかけられた問いに、IT部門はどのように応えていくことができるか。これまでのコンピテンシーを土台に、変化に適応してケイパビリティを高めていく、IT部門のダイナミックケイパビリティ戦略はどのように描くのだろうか。

一つには、「デジタル経営企画力」ともいえるケイパビリティの確立があるのではないか。VUCAからの問いかけに応えていくためには、今まで以上にIT部門と事業部門の密接な関係が鍵を握る。特にデジタル技術と経営や事業のいわば”新結合”を推進する中で変動性(V)と不確実性(U)を価値創造の源泉に転換し、新たな秩序を見出していくことが求められるのではないだろうか。

次に、新たなデジタル技術・サービスの実装段階におけるルールや制度を確立することによって曖昧性(A)を縮減し複雑性(C)に対処する、いわば「デジタルガバナンス力」というケイパビリティが重要になるだろう。そして、これらを支えるのは現場・事業部門の連携を深める場をつくるための「組織開発力」ともいうべきケイパビリティである。

そして、より重要性を帯びてくるのは「IT資産運用力」ではないだろうか。
VUCAへの対応の陰で、IT資産の信頼性を担保するシステム運用力が相対的に劣化していくことは何としても避けなければならない。その上で、クラウドやデータセンターなどIT基盤のエネルギー管理、調達におけるカントリーリスクへの対応、サイバーセキュリティへの対応など、IT資産の価値を担保するための新たな挑戦も注目されるようになるのではないだろうか。

さて、今回は「VUCAが企業ITに投げかけるイシュー」をテーマにお話しさせていただきました。
是非次回もご覧ください!

企業IT動向調査に関するお問い合わせ先
JUAS 企業IT動向調査担当:山畔・鈴木(itdoukou@juas.or.jp)

<参考>

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