企業IT動向調査コラム

第3回 調査部会長が解説する、企業IT動向調査速報解説

企業IT動向調査2022の結果からみる 『ニューノーマルへの対応』

解説:志村 近史 企業IT動向調査部会長 東京工業大学 非常勤講師(元 野村総合研究所)
聞き手:三宅 晃 一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会 専務理事

「企業IT動向調査」は、ITユーザー企業のIT動向把握を目的に、1994年度から実施しています。定点観測と共に時宜に即した重点テーマを毎年設定し、2021年度で28回目を迎えました。
本年度は重点テーマとして『デジタル経営の分岐点』を掲げ、DXリスタートとも呼べる今、IT部門は企業経営の中でどのような役割を果たし、どのようなシナリオを描くことが求められるのかを探ります。

調査は2021年9月~10月に実施しました。
環境変化のスピードが速まっている昨今の状況も踏まえ、2021年12月に調査結果速報を調査部会長の志村氏の解説で、動画にまとめました(本動画の公開は、本調査の回答企業およびJUAS会員企業の限定となります、ご了承ください)。

本コラムでは、そのエッセンスを広く皆様にお届けします。
詳細はぜひ動画および2022年4月公表予定の報告書をご覧ください。

全3回でお届けしている当コラムも今回が最終回となります。
第3回目は、『ニューノーマルへの対応』をテーマに、志村氏よりお話をいただきました。


企業IT動向調査部会長 志村氏

JUAS専務理事 三宅

新しいワークスタイルとマネジメント ~「New normal ready」

●(三宅)まずは「新しいワークスタイルとマネジメント」から、解説をお願いします。
――(志村)テレワークのためのIT環境整備は、全体の4割の企業で、ほぼすべての従業員が「VPNによる社内システムへの接続」を利用できるとしています。従業員規模が大きいほど、グループウェアの用意やリモート会議システムなどテレワークのためのIT環境整備が進んでいます。特にリモート会議システムでは従業員数5000人以上の企業では約8割、売上高1兆円以上では9割の企業でほぼすべての従業員が利用できるという回答でした。在宅勤務の普及などによりオフィスの縮小を検討している企業は、全体では1割弱ですが、売上高や従業員規模の大きい企業では2割を超えています。また、新たな働き方での課題とされてきた「働きがいやエンゲージメント向上のための施策」の実施も企業規模と比例して多くなっています。企業規模が大きい企業では、リモート併用による新たなビジネススタイルへの移行にむけ、いわば「New normal ready」の状態にあるといえるでしょう。

●(三宅)新たなビジネススタイルへの移行が、企業規模に比例して進みつつあるのですね。規模に関わらず、新たなビジネススタイルへ移行していけるかは、日本社会の課題という気がします。

パンデミックへの備え ~産業全体での取り組みが課題に

●(三宅)続いて、新型コロナ禍を経験する中で、「パンデミックへの備え」についてはどうでしょうか。
――(志村)売上高1兆円以上の企業の7割弱が、新型コロナ等の感染症リスクを想定した全社的なBCP(事業継続計画)を策定し、運用のPDCAを回している結果となりましたが、全体では2割程度にとどまります。新型コロナ禍において、より大きな影響を被った中小企業における取組みの拡大は、日本の産業全体の大きな課題といえるでしょう。そのような中でも、金融・保険業では約5割で、新型コロナ等感染症リスクを想定したBCPを策定、運用しており、策定中も含めると9割にのぼり、パンデミック対応を取り入れつつあるといえ、大変力強く思えるところです。

セキュリティ対策 ~横断的セキュリティへの意識が高まる

●(三宅)続いて、これも皆さんの関心が高い「セキュリティ対策」について解説をお願いします。
――(志村)特にDXやニューノーマルで高度化するセキュリティへの備えです。情報セキュリティ投資をみると、全システムを横断したセキュリティ対策への意識が高まっていることがわかります。また、新型コロナ禍をうけて遠隔化や非接触化など、商品やサービス提供方法の変革に取り組む卸売業・小売業などを中心に、DXや新システム導入に対するセキュリティ予算増も想定されています。そのような中、ゼロトラストセキュリティは、全体として導入済みとする企業は5%程度に留まりますが、金融・保険や建築・土木では先行して導入が進みつつあるようです。

セキュリティインシデントへの備えでは、「IoT機器の脆弱性を利用した攻撃」「サプライチェーンの弱点の悪用による被害」「テレワークシステムの脆弱性」について、6~7割の企業が同業他社並みの対策を講じつつも多少の不安も感じているという結果となりました。これらについても売上高規模による差は大きいです。

DXやニューノーマル化に伴って、セキュリティ対策は質量ともに大きく変貌してきているのではないでしょうか。今後の課題として注目していかなければならないでしょう。

●(三宅)DXの進展に伴って、新しい分野でのセキュリティ対策が特に必要になってくるということですね。良くも悪くもセキュリティ対策に終わりはないということかもしれません。

新たなグローバルイシュー ~法制度対応、調達の地政学的リスク

●(三宅)それでは最近耳にするようになった、「グロ-バルイシュー」に関して、解説願います。
――(志村)DXの進展は、ITにおけるグローバル対応にも新たな視点を投げかけるものです。サイバー・データ活用などの各国独自のIT関連法制度対応は、状況に応じ適宜行っているのが現状です。GDPRの導入からすでに数年が経過し、個人情報の国際的な移転制限やデジタル協定など、グローバルでの仕組み作りが急速に進んでいる中で、今後の動向が注目されるところです。同様に、IT機器、アプリケーション、クラウドサービスの調達における地政学的リスクへの備えについても状況に応じて様子をみて適宜対応しているのが現状です。しかしこれらが今後、グローバルなDXの展開が進む中で、大きな問題となることも懸念されるのではないでしょうか。

●(三宅)これは一企業だけでは難しい面もあると思います。官民一体となった対応が必要かもしれません。
では「企業IT動向調査2022」速報解説は以上です。志村さん、ありがとうございました。

※ 当コラムの内容は2021年12月時点のものです。

全3回でお届けしました、「調査部会長が解説する、企業IT動向調査速報解説」いかがでしたでしょうか?
是非感想など、下記担当者までお寄せください。
引き続き、企業IT動向調査の情報を皆さまにお届けしてまいりたいと思います。

※当コラムは調査結果をいち早く皆様にお役立ていただくために「速報」として公開するものです。
正式なデータや分析結果をまとめた報告書については、2022年4月に公開予定です。

企業IT動向調査に関するお問い合わせ先
JUAS 企業IT動向調査担当:山畔・鈴木(itdoukou@juas.or.jp)

<参考>

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