企業IT動向調査コラム

第1回 学術研究

IT組織の機能・能力の分類と経営への貢献

JUAS企業IT動向調査部会
向  正道 開志専門職大学 教授 兼 日鉄ソリューションズ株式会社
大内 紀知 青山学院大学 教授

調査部会では調査結果をさらに深く分析することに取り組み始めており、複数回に分けて分析結果を公開してまいります。2024年度 第1弾として、「IT組織の機能・能力の分類と経営への貢献」についてご紹介いたします。

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1.はじめに

IT組織には、事業のITに対する依存度や組織構造も関係し、様々な役割を持つIT組織があると考えられる。本稿では、因子分析(※1)を用いて、関係性の深いIT組織の機能・能力をグループ化するとともに、それぞれの機能クループと、経営革新・DX、業務改善、システム安定稼働の3つの貢献について関係性の分析を行う。

2.IT組織の機能・能力についての因子分析 

本紙は、「企業IT動向調査報告書2024」のQ6_4_2の現在のIT組織の機能・能力の従属度データを用いて因子を抽出する。

質問  :IT部門・情報子会社の個々の機能・能力について、現在の充足状況をお選びください(「特になし」を除く16機能)
選択肢 :「充足している機能・能力」、「不足している機能・能力」、「IT部門の機能・能力ではない」(それぞれ、3点、2点、1点として分析)

IT組織の機能・能力:

企画・推進力 q6_4_2_1:ITを用いた新たなサービスやビジネスモデルの検討
q6_4_2_2:新技術の探索・評価
q6_4_2_3:ITの活用面での外部の企業との連携
q6_4_2_4:ITを用いた既存業務の改善
q6_4_2_5:データマネジメント
システム構築・運用力 q6_4_2_6:プロジェクト管理(計画、およびコスト・納期・品質の管理)
q6_4_2_7:アプリケーション設計・開発(ウォーターフォール型)
q6_4_2_8:アプリケーション設計・開発(アジャイル型)
q6_4_2_9:ITアーキテクチャ標準化、IT基盤整備
q6_4_2_10:システム運用管理(安定化、運用状況管理)
q6_4_2_11:情報セキュリティ対応
組織マネジメント力 q6_4_2_12:経営・事業部門との関係構築
q6_4_2_13:コスト低減に向けた企画・推進
q6_4_2_14:ベンダーマネジメント・関係構築
q6_4_2_15:IT人材の採用・育成
q6_4_2_16:組織内の風土醸成

Q6_4_2の欠損値のある企業のデータを除いて因子分析(※2)を行い、3つの因子を抽出した(分析データの諸元についてはAppendix. A(※3)を参照)。

表1 3つの因子に対するIT組織の機能・役割の因子負荷量
表1

各因子に対する因子負荷量(因子に対する各機能・能力の関与の大きさ)から、第1因子から第3因子は以下のように解釈できる。

(1) 第1因子:IT組織の企画・マネジメント力
第1因子で因子負荷量が0.5以上となるものとして、因子負荷量の大きい順に、「新たなビジネスモデルの検討」、「経営・事業部門との関係」、「外部の企業との連携」、「組織内の風土醸成」、「新技術の探索・評価」、「ITコスト低減」の6つの機能・能力が特定された。「ITコスト低減」を除き、新たな取り組みを企画するために必要な機能・能力と考えられる。
関連して、「IT人材の採用・育成」、「ベンダーマネジメント」、「データマネジメント」、「既存業務の改善」、「プロジェクト管理」も高い因子負荷量となっている。
企画能力以外でも、「ITコスト低減」、「ベンダーマネジメント」、「プロジェクト管理」のマネジメント能力、またの組織能力の基盤となる「組織内の風土醸成」、「IT人材の採用・育成」が関係していることが特徴として挙げられる。

(2) 第2因子:IT組織のシステム運用力
第2因子では、因子負荷量の大きい順に、「システム運用管理」、「情報セキュリティ対応」、「ベンダーマネジメント」、「既存業務の改善」、「ITコスト低減」、「基盤整備」の6つの機能・能力が特定された。それぞれ、システムを利用して、安定して事業運営を行うために必要な機能・能力となる。

(3) 第3因子:IT組織のシステム開発力
 第3因子では、因子負荷量の大きい順に、「アジャイル型開発」、「ウォーターフォール型開発」、「基盤整備」の3つの機能・能力が特定された。「プロジェクト管理」もやや高めの因子負荷量となっている。開発手法、アプリ/基盤が混在しているが、システム開発を行う上での機能・能力となる。

3.3つの因子とIT組織の貢献度の関係  

3つの因子が、DX推進状況、およびIT組織の3つの貢献に対しどの程度影響するかを確認する。合わせて、CIO(最高情報責任者)との関係についても確認する。
「企業IT動向調査報告書2024」の対応する質問項目は下記の3点となる。

Q3_1:
貴社はDXを推進できていると思いますか。
選択肢:「非常にそう思う」、「そう思う」、「どちらともいえない」、「そう思わない」、「まったくそう思わない」
Q6_1:
貴社のIT部門・情報子会社は、経営層から見てそれぞれの役割に応えられているか、最もあてはまるものをお選びください。
Q6_1_1:事業創造やビジネス面の変革(DX等)
Q6_1_2:業務やサービスの改善
Q6_1_3:システムの安定稼働(基盤整備、セキュリティ対策含む)
選択肢:「十分応えられている」、「一部応えられている」、「どちらともいえない」、「応えられていない」、「IT部門・情報子会社の役割ではない」
Q1_9:
貴社のCIO(最高情報責任者)など、情報関連の責任者についてお聞きします。情報関連の責任者(CIOもしくはCTOなど)に該当する方はいますか。
選択肢:「役職として定義されたCIO等がいる(専任)」、「役職として定義されたCIO等がいる(他の役職と兼任)」、「IT部門・業務を担当する役員がそれにあたる」、「IT部門・業務を担当する部門長がそれにあたる」、「CIO等はいない、あるいはCIO等に対する実質的な認識はない」

まず、Q3_1:DXの推進状況について、因子得点(各因子の因子負荷量をもとに積算した値)の平均値を表2に示す。
「DXを推進できているか」について「非常にそう思う」と回答した企業はすべての因子について高い値となっている。特に第1因子「IT組織の企画・マネジメント力」が特に高い値となっている。一方で、「まったくそう思わない」と回答した企業はすべての因子が低い値になっている。
このことから、DXの推進が進んでいる企業は、ある機能・能力が優れているというより、すべての機能・能力を高める必要があることがわかる。その中でも「IT組織の企画・マネジメント力」はDX推進のために重要であることがわかる。

表2 3つの因子とQ3_1 DX推進状況
表2

次に、Q6_1に示す3つのIT組織の貢献度について因子得点の平均を示す(表3-1、表3-2、表3-3)。

まず表3-1から、Q6_1_1「事業創造やビジネス面の変革(DX等)への貢献」について、「十分応えられている」と回答した企業は、第1因子「IT組織の企画・マネジメント力」が高い値となっており、「応えられていない」、「IT組織の役割ではない」との差も大きい。「IT組織の企画・マネジメント力」なくして経営改革やDXの貢献は難しいことがわかる。
表3-2のQ6_1_2「業務やサービスの改善への貢献」については、すべての因子について「十分応えられている」と回答した企業の得点が高いだけでなく、「応えられていない」、「IT組織の役割ではない」と回答した企業との差も大きい。さらに、Q6_1_1「事業創造やビジネス面の変革(DX等)への貢献」より差が大きいことがわかる。業務やサービスの改善は成果につながりやすいこともあり、比較的成果を確認しやすいことから顕著な差につながったと考えられる。
最後に表3-3のQ6_1_3「システムの安定稼働への貢献」について、「応えられていない」、「IT組織の役割ではない」は貢献度が他の貢献と比較して特に低い値となっている。また、想定内の結果であるが、第2因子「IT組織のシステム運用力」なくして貢献度は上がらないこともわかる。

表3-1 3つの因子とQ6_1_1「事業創造やビジネス面の変革(DX等)への貢献」
表2-3

表3-2 3つの因子とQ6_1_2 業務やサービスの改善への貢献」
表2-4

表3-3 3つの因子とQ6_1_3「システムの安定稼働への貢献」
表2-5

最後に表4に、Q1_9「CIOの設置状況」に対する因子得点の平均を示す(表4)。
専任のCIOを設置されている場合、第1因子「IT組織の企画・マネジメント力」と第3因子「IT組織のシステム開発力」が高い値となっている。
このことから、CIOが専任で設置されると、よりIT組織の企画・マネジメント力が高まるだけでなく、実際にシステムの開発や基盤整備が進むことが示されている。

表4 3つの因子とQ1_9「CIO の設置状況」
表2-5

4.おわりに

本稿では、IT組織の形態を示すために、機能・能力の充足度を因子分析を通じてグルーピングを行った。結果としてIT組織の主要機能と考えられる、企画・マネジメント能力、システム開発能力、システム運用能力を確認することができた。
本主成分をもとに、DX推進状況について分析を行い、DXの推進が進んでいる企業においては、3因子とも高い因子得点を確認した、また、「事業創造やビジネス面の変革(DX等)への貢献」、「業務やサービスの改善への貢献」、「システムの安定稼働への貢献」について分析を行い下記の結果を得た。

「事業創造やビジネス面の変革(DX等)への貢献」:企画・マネジメント能力が高くなると貢献度にプラスの影響
「業務やサービスの改善への貢献」:すべての能力について、プラスとマイナスの顕著な影響
「システムの安定稼働への貢献」:IT組織のシステム運用力が低くなると貢献度にマイナスの影響

合わせて、CIOの設置状況と3つの因子との関係を確認し、専任のCIOがいる場合、企画・マネジメント機能とシステム開発能力が高まることを確認した。

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(※1) 「因子分析」とは、複数データ間の関連性を明らかにする統計手法の一つ。今回のIT組織の機能・能力のように複数の質問項目で構成される場合、これらを説明できる少数の分析軸(因子)を抽出することで、データの解釈が容易になる。本稿では分析軸のことを「機能グループ」と呼ぶ。分析ツールにはR for Windows 4.3.2を利用。
(※2)因子分析において軸のPromax回転を行った。Promax回転とは、直行にこだわらない軸の回転方法で、因子の解釈が容易となる。
(※3)Appendix. AはレポートPDF内に掲載。

当分析には会社名、ご回答者名がわからない状態の「企業IT動向調査2024(2023年度調査)」のデータを用い分析しています。「企業IT動向調査2024(2023年度調査)」を用いた分析結果はJUASのHPでの公開のほか、対外発表も予定しております。

企業IT動向調査に関するお問い合わせ先
JUAS 企業IT動向調査担当:鈴木(itdoukou@juas.or.jp)

<参考>

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